法律ラテン語

国際法学ではラテン語の慣用句や法諺が多用される傾向にある。

法諺

cūjus est solum est usque ad cælum et ad inferōs.

地表の属する者に,天空も地下も属する。

領空権の主張根拠。1783年のモンゴルフィエ兄弟の気球実験以来,空の「領有権」について法学上の争いがあり,自由論者と領空論者が対立した。1903年のライト兄弟の動力飛行の成功を機に議論は過熱し,1919年パリ国際民間航空条約において最終的に決着を見た。平野の修論を参照。

ex injūriā non oritur jūs.

不法は権利を生ぜず。

法は,不法行為から利得を得ることを認めない,という原則。アクターが入り組んでいる場合,これを貫徹しようとするとややこしいことになる。

nē bis in idem.

一事不再理。

同一事犯で二度裁かれることはない,という刑事法の原則。国内刑事裁判と国際刑事裁判の関係において論点になる。

pacta sunt servanda.

合意は拘束する。

1969年のウィーン条約法条約第26条に示される原則。初期ケルゼン的には,根本規範 (Grundnorm)。なお複数形である点に注意。

国家主権は対内最高かつ対外独立,自らの意思に基づいてのみ拘束される,というのが近代国際法の基本的パラダイム。ここから,法の不在は合法と見倣す発想が生じる(ローチュス号事件)。しかしこの視座を貫徹すると,強行規範(ウィーン条約第53条)の存在を認められない。ウィーン条約の起草当時も論争の種になった。

pacta tertiīs nec nocent nec prōsunt.

合意は第三者を益しも害しもしない。

条約外第三者への効力を否定する言葉。なお,ウィーン条約では第三者による暗黙の合意を擬制することで,利益付与については肯定している。

慣用句

鍵括弧内は直訳したもの。文脈によって言葉を選ぶとうまく解釈できる。

amīcus cūriae
法廷の友。訴外第三者の訴訟参加。
animus
意思。
ante lītem mōtam
訴訟開始に先立って。lītem < līs
causa sine qua nōn
必要条件。
dē legē ferrendā
立法論に関して。legē < lex
delicta jūris gentium
国際法上の不法行為。
diligentia quam in suīs
客観的注意義務。「彼と同じ状況にある者の真面目さ」
dominium
所有権。
infra legem
法の下で。legem < lex
ergā omnēs
対世的。「万人に対して」
ex aequō et bonō
衡平と善による。
ex gratiā
礼譲として。法的義務を認めるわけではないが,という含意。
imperium
支配権。
in limine
始まりにおいて。
in statū nāscēndī
形成途上において。「生まれつつある状態において」
in territōriō alienō
外国において。「他者の土地において」
inter sē
当事者間で。「彼らの間で」
jūs cogēns
強行規範。ジュスコーゲンスと発音しないように。
latō sēnsū
広義では。対義語は strictō sēnsū,狭義では。
lex ferrenda
立法論。「要求されている法」。対義語は lex lāta,現行法。ferrenda, lāta < ferō
locus delictī
(不法行為の)行為地。
locus standī
(訴訟の)当事者適格。
obiter dicta
(判決の)付帯意見。
opīniō jūris et necessitātis
法的かつ必要的信念。慣習法の成立要件の一。オピニオジュリスと発音しないように。
primā faciē
一見して。
ratiō decidēndī
判決理由。
ratiōne materiae / personae / temporis
事項的/人的/時間的理由により。
rēbus sic standibus
同意の不可欠の基礎をなす根本的な事情により(ウィーン条約第62条)。
rēs commūnis
共有物。
rēs jūdicāta
訴訟物。
suī generis
特別な。
terra nūllīus
無主地。
ultrā virēs
権限を踰越して。

ラテン語の読み方・書き方

読み方

基本的にはローマ字どおり。ただし,以下の点に注意する。

書き方

文章内で用いるときはイタリック体とする。タイプライタなど書体変更ができない場合には下線を引く。


2008年07月22日
平野敬 [HIRANO, Takashi]
t.hirano.jp@gmail.com