概論
論文とエッセイ,レポートの違い
自発的動機に導かれてテーマを選定するのが論文 (Dissertation / Thesis)。実態はどうあれ,少なくとも理想としては。他方,外部から与えられた問いに対する解答がエッセイやレポート(Assignment)ということになる。いわゆる「小論文」を量的に拡張したものが論文なのではない。
したがって,論文を書く上ではテーマの選定が第一の課題と言える。無自覚におこなってはならない。後述する。
研究姿勢
随想や政治宣伝文ではなく学術論文を書くからには,相応の規範が求められる。この規範のことを学究的良心(ニーチェ),知的誠実と呼ぶこともある。具体例は以下のとおり。
- 常に根拠を示すこと
- 科学は他人の批判に対して開かれていなければならない(ポパー)。前提と推論の道筋を明らかに示し,万人の検証を可能にする。
- 彼我の境界を示すこと
- 他人のアイディアを剽窃 (Plagiarism) することは,学術的コミュニティにおいて非常に重い罪とみなされる。引用,参照は慣習にのっとり正確におこなう。
- 自らの限界に自覚的であること
- 特に人文社会系の研究においては,論者の偏見や願望,立場がしばしば結論に影響する。別に論文に支持政党や宗派を書く必要はないが,バイアスに自覚的であることは中立性を増す。
少ないサンプルから一般論を導く,条件のまるで異なるもの同士を比較する,といった牽強付会は学問以前の問題。なお,知的誠実の美徳に含まれるかどうかはともかく,以下の点にも注意したい。
- 一次文献にあたること
- 二次文献・三次文献を読んでわかったつもりにならない。外国語資料については,安易に和訳英訳に頼らず,可能な限り原語での参照を試みる。
- 用語に気を配ること
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- 主観が入り込みやすいことば。「絶対に」「誰もが」「信じられない」
- 特別な含意が学界で共有されていることば。「法律」「犯罪」「戦争」
- 政治的な正しさ (Political Correctness)。「ジプシー」「インディアン」
テーマの選定
テーマの絞りこみ
知的に誠実な論文を書こうとすれば,テーマを大きく絞り込む必要がある。とりわけ調査能力や時間に制限のある卒論ならばなおさら。
論述対象における時間・地理的空間の範囲,アプローチ方法を限定することで,より明確で現実的なテーマが得られる。
- インターネットを通じた憎悪表現の規制について
- 欧州連合におけるインターネットを通じた憎悪表現の規制について
- 欧州連合における2001年以降のインターネットを通じた憎悪表現の規制について
- 欧州連合における2001年以降のインターネットを通じた憎悪表現の規制について~欧州人権裁判所の判例を中心に
テーマの妥当性を検証する
アンダーソンは以下のような基準を挙げている。
- 適切な監督が得られるか?
- そのトピックに,あなたは本当に興味があるか?
- そのトピックは,要求時間内に完遂できるか?
- 必要な機器が得られるか?
- 被験者は得られるか?
- 現地の情報源に向かう旅費は得られるか?
- 図書館施設は充分か?
- その研究は達成可能か?
- その問題は意義あるものか?